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牯岭街少年殺人事件


「牯岭街少年殺人事件」という台湾の映画を観たから、感想を書く。

1950年代後半の台湾を舞台にし、その時代に生きる人々の私生活を描いた映画。と言うのが間違いないと思う。

その中に出てくるのは時代に翻弄されながらも強く生きる人たち。

この時代の台湾は混乱を極めていて、人々はとうに希望など持っていなかった。第二次大戦で日本が敗戦し台湾から撤退をすると、そこへ逃げ込んできた中国国民党。そうしてまた台湾は侵略された。

同時に中国から移住してきた人も多かった。

この映画の主人公は外省人と呼ばれる中国から移住してきた一家。当時の台湾は戒厳令が敷かれ、法律などあってないようなものだった。国民党の独裁政権であり、反逆する意思のある者や共産党の疑いをかけられた者は連行され、無実の罪を着せられ、投獄や拷問、そして処刑された。

こういった時代背景の中で進む、2人の恋愛、家族の絆、はたまた友情の話である。そして、推測になるけれど、たぶんここに描かれている人たちは、特別かわいそうな人なんかではなく、誰もが似たようなことを経験する可能性があった。平凡な家族と平凡な身辺の人たちの話なんだろう。

4時間というかなり長編の映画であるからこそ、これだけの要素を詰め込めた。この当時の時代背景を知ってこそ、淡々とした流れでも飽きずに見ることができるのかもしれない。

この映画の中で特に印象に残っているのは、小明の生き方や考え方、お父さんと小四の「間違ってないのに謝る必要はない」の会話にこの時代に対する不満や姿勢が現れていたことだろう。それから時々出てくる「アメリカ」。当時の台湾でもアメリカへの憧れは強かった。それはアメリカが台湾とは違い、自由の国の象徴だったからだろう。

誰もがいつ連行されるかもわからない時代で、不安な人々の中にはアメリカへ逃げる人も多かった。アメリカへの憧れが洋楽、プレスリーや映画スタジオ、お姉さんの留学、親戚という形で現れている。

映画自体の感想はおそらく人によって大きく意見が異なるだろうけど、とにかく素晴らしいのは、時代がさせる非人間らしさとは裏腹にそれに葛藤する人間の人間らしさが見えることだ。

自分で言った事を自分の為には貫き、子供のためには迷いながらも曲げるお父さん。小明と小馬への怒りと葛藤する不器用な小四。家族を助けるためにギャンブルへ走ってしまうダメな兄だけど弟をいつもかばう優しい小二。

こういう人間の弱さが人間らしさなんだろう。

ストーリーの要でもある小明と小四の恋愛は純愛と言えるのかわからないけれど、普段無口でどこか感情の読めない小四が小明にだけ見せる笑顔が忘れられない。けれど2人が恋に翻弄される姿は見ていて切なくなる。それは確かに恋愛が人を変えてしまうからだろう。人を好きになれば誰よりもその人を想い、優しくできる反面、一時だけ怒りに変わることもある。本当は大好きなのに自分でも信じられない行動をしてしまう。

好きだからこそ悩み、怒り、嫌にもなる。本当に嫌になったわけじゃなかったとしても。たぶん愛が大きければ大きいほど辛いことは多いのかもしれない。でもそれは悪いことではなくて、その分幸せも多く感じることができるはずだし、辛い経験をしたぶん何か変わるはずだと思ってる。

30年後の小四が知りたい。

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